「えをかくかくかく」
エリック・カール 作
ア―サー・ビナード 訳
「はらぺこあおむし」でおなじみの絵本作家・エリック・カールは絵本の魔術師という名をほしいままにしている作家だ。先般「あつまるアニマル」の紹介の中で、アーサー・ビナード氏を言葉の魔術師と呼んだ。ということは、『えをかくかくかく』は、期せずして2人の魔術師の競演がみられる絵本だということだ。
エリック・カールは、12歳の頃ナチス政権下のドイツでこっそり見せてもらった、フランツ・マルクの絵に衝撃を受けたという。フランツ・マルクは動物好きの、夭折のドイツ人画家である。『えをかくかくかく』は、そのフランツ・マルクへのオマージュとして描かれた作品だ。
「自由に絵を描きたい!」という作者の想いが絵本全体にみなぎっている。主人公の少年が描く絵は、全く常識にとらわれない。例えば、黄色い牛や緑のライオンなど、いずれも自由でかっこよく伸び伸びした絵である。黒い白くまなんてまったくもって最高だ。
もちろん、もう一人の魔術師アーサー氏も負けてはいない。
まず、邦題がいい。原題は「The Artist Who Painted a Blue Horse」だ。原作者には申し訳ないが、原題よりも作品のテーマをピタリと捉えているのではないだろうか?ページをめくれば、心に響く訳が続く・・・・・
えをかくこと それは のびのびと いきることだ
なにいろで かくか
それをかんがえるのも とってもだいじ
まちがったいろ?そんなものはない
自分にぴったりの色を探し、考えながら、自由にのびのびと描く・・・・
それは、「人間の一生」というキャンパスに描く「人生」という絵についてもかたっているのだと気づかせてくれる。
躍動感のある絵に、小気味良い訳が躍る。
2人の魔術師によってもたらせれる「清々しい読後感」。こんな魔術なら何度でもかかってみたいものだ。
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